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Keiichi HayashiK1884 Research Technology Space Industry Space Access Launch

Impulse Space

元SpaceX一号社員が率いる軌道間輸送機の先頭走者。Miraは3回実飛行済み

Impulse Space logo

公式サイト: impulsespace.com

設立
2021年
米カリフォルニア州レドンドビーチ
従業員
約500人
2026年半ば時点
累計調達
10億ドル超
2026年6月時点・米ドル

基本情報

Impulse Space は2021年6月に設立された米国の宇宙物流スタートアップ。本社は米カリフォルニア州レドンドビーチ、コロラド州ボルダーにもオフィスを持つ。創業者はTom Mueller。SpaceXの一号社員かつFalcon 9のMerlinエンジン、DragonのDracoスラスタを設計した推進技術の第一人者であり、この経歴が同社の技術的信頼性の核となっている(出典: Wikipedia「Impulse Space」/Forbes 2026年6月7日)。

Seraphim Ecosystem Map 2026上の分類は Space Access より Launch より OTVs(軌道間輸送機)。事業は宇宙専業で、ロケットが投入した衛星を目的の軌道まで運ぶ「宇宙のラストマイル」に特化している。従業員数は2025年時点で259人程度だったが、2026年半ばには約500人へ急拡大し、公開求人も約200件に達している(出典: Contrary Research 2025年/TechCrunch 2026年6月2日)。

顧客課題と製品

主な顧客は衛星オペレーター、政府・防衛機関(米宇宙軍、NASA)、商用宇宙ステーション事業者。顧客の課題は明快で、SpaceXのFalcon 9のような低コスト相乗りロケットは衛星を低軌道(LEO)までしか運ばず、そこから静止軌道(GEO)や中軌道、あるいは特定の任務軌道まで自力で移動する手段が乏しい点にある。専用ロケットは高価で、電気推進の従来型輸送機はGEO到達に4〜9か月を要する。

主力製品は2つ。ハードウェアであり、輸送サービスとしても提供される。

Mira は食洗機ほどの小型軌道間輸送機(推進剤搭載時で約300kg)。ペイロードを載せ替え、任意の軌道へ精密に運び、寿命末には大気圏へ落とす。2023年11月(LEO Express 1)、2025年1月(同2)、2025年11月(同3)と3回の実飛行を完了しており、この分野では極めて稀な実績となっている。2025年後半の3号機からは太陽電池パドル可動化などの改良型に移行した(出典: Impulse公式「LEO Express 3 Mission Updates」2025年11月/Gunter’s Space Page)。

Helios は高エネルギーのキックステージ。Falcon 9で4トン、RelativityのTerran Rで5トンの衛星をLEOから1日以内にGEOへ直接送り込む。液体酸素・メタン燃焼のDenebエンジンを用いる。ただしHeliosは未飛行で、初飛行は2026年から2027年へ後ずれしている(出典: blocmates 2026年/Via Satellite 2025年5月22日)。

導入前後の変化は、GEO到達時間が数か月から1日未満へ短縮される点、専用ロケット調達に比べ大幅な低コスト化が図れる点にある。乗り換え理由は速度とコスト、そしてMiraの実飛行実績。導入をためらう理由は、価値の大半を担うHeliosが未実証であること。

ビジネスモデル

収益源は主に3つ。第一に固定価格の軌道間輸送サービス。HeliosによるGEO直行は1ミッションあたり約2,000万ドル(米ドル、2025年基準・推定)、Miraの相乗りスロットは100kg未満で100万ドル未満とされる。第二にSaiphスラスタや推進タンクなどの推進ハードウェア販売(例: Vast社のHaven-1向け)。第三にマイルストーン型の政府・防衛契約で、R&D資金を回収しつつ能力を実証する(出典: Contrary Research 2025年)。

料金を払うのは衛星オペレーター、政府機関、宇宙ステーション事業者。売り切り型のミッション課金が中心だが、SESのような複数打ち上げ契約は継続的な受注につながる。粗利構造は、コストの多くを顧客へ転嫁できる一方、レドンドビーチの約5,600平方メートル(6万平方フィート)工場と大量のエンジニア人件費という固定費を抱える。量産化とHeliosの繰り返し飛行が実現すれば利益率改善の余地は大きいが、現時点では研究開発先行の段階(推測)。

市場と競争力

対象市場はOTV(軌道間輸送)および宇宙物流。OTV市場は2030年に40〜60億ドル、宇宙物流全体は2030年の約40億ドルから2040年に約198億ドルへ拡大すると予測される(出典: Contrary Research 2025年、いずれも米ドル)。

主要競合は D-Orbit(ION、17回以上の飛行実績)、Exotrail、Momentus、Rocket Lab(Photon)、Firefly(Sherpa)、Northrop Grumman(MEV/MRV)。多くが電気推進で効率を優先するのに対し、Impulseは化学推進による「速さ」を前面に出す。競争優位は、Miraの複数回実飛行という実証済みの信頼性、Tom Muellerを筆頭とする世界最高峰の推進技術チーム、Saiph・Rigel・Deneb間で推進剤系統を統一したモジュラー設計による認証コスト低減にある。参入障壁は宇宙実証の難しさと推進技術の深い蓄積であり、模倣は容易でない。

この市場が今立ち上がる背景には、相乗り打ち上げの普及でLEOへの投入コストが劇的に下がった一方、そこから先の「機動性」が新たなボトルネックになったことがある。

実績と成長性

2025年8月時点で商用・民生・防衛あわせて30件超の契約を保有し、総額は推定約2億ドル(米ドル)。主要な実績は以下。

  • SES: 2025年5月、Heliosで4トン級衛星をLEOからGEOへ運ぶ複数打ち上げ契約を締結。初ミッションは2027年予定(出典: SES/Business Wire 2025年5月22日)。
  • 米宇宙軍 Space Systems Command: VICTUS SURGO/SALO任務向けに3,450万ドルの契約。MiraとHeliosを組み合わせ、政府センサーを数時間以内に再配置する即応能力を実証(出典: Impulse公式)。加えて6,000万ドルのSTRATFI枠も獲得。
  • Orbit Fab: 国防イノベーションユニット(DIU)資金によるGEO軌道上給油ミッションでMiraを採用。
  • NASA: VADR契約枠に採用。VADRのOTV研究にも選定。
  • Vast: 商用ステーションHaven-1向けにSaiphスラスタと推進ハードウェアを供給。

Miraは3回の軌道上飛行を達成し、初期のLEO Expressミッションでは全ポートが完売したとされる。財務は非公開だが、2024年の売上は約3,450万ドル(米ドル、複数データベース報道)とされ、従業員数は259人(2025年)から約500人(2026年半ば)へ拡大しており、契約獲得と採用の勢いが成長を裏づける。

資本政策と投資評価

累計調達額は10億ドル超(米ドル)。2026年6月上旬にシリーズDで5億ドルを調達し、評価額は約42.6億ドルに達した。137 VenturesとBANNER VCが共同主導し、Founders Fund、Lux Capital、Linse Capitalなどが参加した(出典: TechCrunch/SpaceNews 2026年6月2日/Bloomberg)。2025年6月のシリーズCでは評価額18億ドルだったため、約1年で評価額が2倍以上に跳ね上がった格好。2023年7月のシリーズAはRTX Ventures主導で4,500万ドルだった。

政府契約(宇宙軍3,450万ドル、STRATFI 6,000万ドル)がR&D資金の一部を担う。資金使途はHeliosの開発・初飛行、Mira量産、工場拡張、人員採用。IPOの可能性は中期的にあり得るが(推測)、Heliosの実証が先決。バリュエーションは2024年売上に対して極めて高倍率であり、将来のHelios成功を織り込んだ期待先行の水準といえる。

総合評価

この企業を一言で表すと「軌道間輸送の先頭走者」。顧客が選ぶ最大の理由は、実際に3回飛んだMiraの信頼性と、Tom Muellerを核とする推進技術の深さ。最も強い競争優位は、化学推進による圧倒的な速さ(GEO到達1日未満)と宇宙実証の蓄積。

最大の事業リスクは、42.6億ドルという評価額を正当化するHeliosがまだ未飛行で、初飛行が2026年から2027年へ後ずれしている点。ここが失敗すれば投資テーゼの根幹が揺らぐ。今後3〜5年の成長ドライバーは、Heliosの初飛行成功、SES向け商用GEO輸送の立ち上がり、防衛即応任務の拡大。競合比では、実飛行実績と資本力で頭一つ抜けた位置にある。情報不足で判断できない点は、実際の粗利率と受注残の正確な内訳。

重要事項サマリー

項目内容情報源・時点
設立2021年6月、レドンドビーチWikipedia
創業者Tom Mueller(元SpaceX一号社員)Forbes 2026年6月
従業員約500人TechCrunch 2026年6月
累計調達10億ドル超(米ドル)SpaceNews 2026年6月
直近ラウンドシリーズD 5億ドル、評価額42.6億ドルTechCrunch 2026年6月2日
主力製品Mira(小型OTV、3回実飛行)、Helios(未飛行)Impulse公式/Gunter’s
主要顧客SES、米宇宙軍、NASA、Orbit Fab、Vast各社発表 2025年
契約規模30件超、推定約2億ドルContrary Research 2025年
主要競合D-Orbit、Exotrail、Momentus、Rocket LabContrary Research 2025年
事業の強さ8/10本レポート評価

情報源